太宰治の贈り物 - 小泊の女
太宰治の津軽紀行集「津軽」を読み、感動のあまり太宰の足跡を訪ねて青森を旅した時のことだ。小泊の太宰治記念館を訪れたとき、親しげに声をかけてくる地元のもんぺ姿の女性がいた。彼女はここでボランテイアで見学者に「津軽」の朗読をしているらしい。名前はてみという。早速私は銅像の前で「タケと太宰の再会の章」をお願いした。後で分かったことだが彼女は私と同じ歳であった。
小泊の宿に戻り、宿の女将に今日の体験を話すと、「ああ、てみさんね。あの人もご主人の女遊びで苦労をしてね........」それはまさに短編小説になるような話であった。北国にはこうした話は枚挙に暇がないのかもしてない。厳冬期の寒さ、出稼ぎ、酒、女.....。五所川出身の吉幾三はそうした津軽の風土を上手く歌に表している。
彼女の朗読もさることながら、薄幸な北国の女に引き合わせてくれた太宰に私は感謝をし、津軽を後にした。帰りの車中もう一度「津軽」を読み返してみたが、内容はちっとも頭に入らず、てみさんの朗読の場面のみが走馬灯のように繰り返し目に浮かぶだけであった。
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